年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
けれど、私は輝との約束なんて何も交わしてもないから、その質問については答えようがなくて迷った。


「どうしました?何か答え難いことでもありますか?」


意地悪そうな感じで話しかけられるが、私は嘘やごまかしも上手く出来ず、ただ唇を閉ざすだけ。
こういう場合はどう答えればいいんだろう…と頭の中でぐるぐると考え、結局良いアイデアも出せずにますます混乱していった。



「まさかとは思いますが…」


手を組み直した相手は、再び私の顔を覗き込む。
じっくりと窺うような目線で顔を眺めると唇を開き、「あいつは何も言ってないのですか?」と問うてきた。


ハッとして目を向けたものの、何も言えずに唇を閉ざす私。
でも、無言が正解だと思ったらしい相手は微笑み、「なるほど、そうですか」と嬉しそうに頷いた。


「つまり、輝は最低な男だと言うわけですね。三年も貴女を独占した挙げ句、結局最後は、遊びで終わらせるつもりでいるんだ」


そう言うと、ニヤリと唇の端を引き上げる。そして、その隙間からボソッと発した言葉を、私はちゃんと聞いていた。


「なんだ。それならあいつを国外に出す必要もなかったな」


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