年下御曹司の、甘い提案が聞きたくて。
それをする前に私達の了承を得ようと思ったと父は言う。だから私と郁は少しホッとして、なんだ…と言いながらソファに背中を付けた。


「ただ、少しでもいい値段が付けば売る覚悟でいるから、二人にも自分達の部屋を借りる準備をしておいて欲しい」

「えっ!?」

「一緒には住まないの!?」


再び背中を離した私に、両親はこくんと首を縦に振る。


「父さん達は会社の事務所の二階に住もうと考えているんだ。彼処なら夫婦二人だけなら何とかなる。ただ、四人では狭過ぎて、これまではどうしようかと思って躊躇ってたんだ」

「借金を背負った頃にもそうしたらどうかと話し合ったの。でも、二人もまだ学生だったし、その後はお父さんの会社も上手くいかなくなって、住む所を無くしたら路頭に迷うことになってしまうから先送りにしただけなのよ」


この頃、ようやく先の目処が付き出した。売るなら今がチャンスかもしれないと話し合い、今夜私達を集めたんだそうだ。


「査定には直ぐにでも入って貰うつもりでいる。不動産屋にも打診はしてあるし、数社の見積もりを貰うつもりでいる」

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