元ストーカーの夫は、
***

遥の会社には、仕事でも何回か来た事はあるけれど──。


……やっぱり大きな会社なだけあって、中に入るのを戸惑ってしまう。

遥の会社は大手機械メーカーで、大小様々な機械を製造、販売している。勿論、目の前の大きなタワービルは、本社ビルだ。

正面玄関は既に、営業時間外の為閉まっている。

……となると、裏口で警備員さんに身分証明をしなければいけない。慌ててバッグを漁っていると、「あれ?」と、突然後ろから声を掛けられた。

驚いて振り返ると、「あ、やっぱり」と、後ろにいた男性にニッコリと笑顔を向けられて、誰だっけ?と一瞬記憶を辿り、あ!と思い出す。


「酷いなぁ〜、今一瞬、誰だっけコイツ?って顔してたよね」

「あ、え!?い、いえ!そんな!お久しぶりです……!結婚式はご来席ありがとうございました!」


まさかの人物に、心拍数が一気に上がって緊張で冷や汗が吹き出してきた。


「あ、もしかしてその反応。アイツ喋りやがったな」


一気にムスッとした表情になった彼は、勿論、正面だろうが裏口だろうが顔パスだ。

九十度に頭を下げる警備員さんの隣を通り過ぎながら、後ろを振り返り私を手招きしてくれる。

なんとなくホッとしながら彼の後について行くと、カードをかざして中に入って行く。


……あれ?でも。

このままノコノコとついて行っても良いのだろうかと思案していると、エレベーターホールまで出たところで彼は振り返り、私を見て楽しそうに笑った。


「そんなに警戒しなくても大丈夫。相良の所だよね?案内するからついておいで。というか、多分今の時間帯はどこもセキュリティロックが掛かってるから、夏美ちゃん一人じゃ辿り着けないよ」


恥ずかしさに小さく「すみません……」と声を漏らして、少し俯く。

“社長”直々に案内をさせてしまうなんて、申し訳なさと恥ずかしさで、やっぱり来なきゃ良かったと後悔してももう遅い。

それに、今更そんな事を考えてもしょうがない、と私は気持ちを切り替えて神崎社長のあとを追った。
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