秘密の出産が発覚したら、クールな御曹司に赤ちゃんごと愛されています
「はい、コンシェルジュカウンターでございます」
『あの、すみません。天野です。僕の家の鍵がちょっとおかしいみたいで、うまく開錠しないんですよ』
「天野さま、お世話になっております。それはご不便をおかけして申し訳ございません。業者を手配いたしましょうか?」

 鍵の業者はどこだっただろうか、とパソコンの中にある業者一覧のファイルを出そうとしていると、電話の向こうの天野さんが話し出す。

『まず一度一緒に見ていただけませんか?』
「え……?」
『僕のやり方が悪いのかもしれませんし、一度スタッフの方にも確認いただきたいです。松岡さん以外の方でも結構なので』

 あいにく、カウンターには私しかいない。

引継ぎの時間まであと一時間ほどあるし、それまで待っていてもらえるかと聞くと、なるべく早くがいいと言われる。

 一時間後に仕事で家を出るらしく、それまでに解決したいのだと。それならすぐに確認して業者を手配しないと間に合わない。というか、それでも間に合うか分からないくらい時間がない。急がなければ。

「では、今すぐ向かいます。少々お待ちくださいませ」
『お手数かけてすみません、よろしくお願いします』

 天野さんの家に行くなど少し気が引けるけれど、私はこのマンションの従業員だ。監視カメラだって常設されているし、セキュリティに関しても引けを取らない。

何かトラブルなど起きたりしないだろうと高を括って、彼の部屋まで急ぐ。
 まさか、それがあんなことになろうとは――。
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