マリッジリング〜絶対に、渡さない〜
『ごめん、亜紀』
『だ…大丈夫』
そう言われ慌てて体を離したのは、鳴り響くスマホの音が社用携帯の音だったからだ。
プライベート用のスマホの着信音とは違い、社用携帯はプルルル…という電子音にしているためすぐにわかった。
大地はソファーから起き上がり、テーブルの上にある社用携帯に手を伸ばす。
『…うわ』
すると意味深にそう言って、電話に出た。
今のは何?と気になりつつも私も立ち上がり、リビングのカーテンを開ける。
『はい、工藤です。あ、おはようございます、はい、はい。あぁ…そうなんですか。はい、ちなみに千堂先生、今どちらにいらっしゃるんですか。』
先生…か。
間違いなく仕事の電話なんだろうけど、こんな朝早くにかけてくるなんて何かトラブルでもあったのだろうか。
『はい、はい…わかりました。では、なるべく早く向かいます。はい、失礼いたします』
別に相手には見えていないというのに。
深々と頭を下げながら電話を切る大地の姿に誠実さを感じる。
『はぁっ…』
『何かあった?』
疲れたような大地のため息に明るく声をかけると、大地は小さく首を振りながら私の元に歩いてきた。
『いろいろあるけど…仕事の愚痴は吐きたくない。しっかり頑張って、亜紀たち色んなとこに旅行とか連れてってやりたいしさ』
大地はそう言うと、私を優しく抱き寄せて。
『今日の夜まで我慢できる?』と私に問いかけた。