マリッジリング〜絶対に、渡さない〜
『あの〜』
と、その時。
大地の後ろから聞こえた声に、思わずハッとなった。
背も体も小さな彼女は大地の後ろ側にいると、こちら側からはすっぽりと見えていなかった状態で。
『お邪魔みたいなんで、私はそろそろ帰りますね』
そう言いながら大地の後ろからひょこっと現れた彼女の姿に慌てて口を開く。
『あっ、ごめんね、今日ちょっと帰りが早くなったみたいで…また…』
また、ゆっくり話そうね、と社交辞令のような言葉を言いかけた時だった。
『ごめんね、俺が早く帰ってきちゃったせいで』
そう言いながら振り返った大地が後ろにいた彼女を見下ろすと、パチパチと瞬きする彼女が上目遣いで大地を見上げた。
30センチほどはありそうな身長差に、ドクンと嫌な感情が胸の中を駆けめぐる。
私には、あんな上目遣いは出来ない。
あんな角度から、大地を見上げられない。
ないものねだりかもしれないけれど…どうしても羨ましさを感じてしまった。