マリッジリング〜絶対に、渡さない〜


「でもさ、どうやって買ったの?まさかお金借りたりしてないよね!?」
「バーカ、この家のローンだってあるのにそんなことするわけないだろ?結婚した直後から…毎月定期預金してたんだよ」


ボソボソと話し始めた大地の言葉に耳を傾けながら、手にしていた指輪をジッと見つめた。

大地は私と交わした無茶な約束を守るために、十年もの間、毎月定期預金していたらしい。
だとしたら、今日の記念日のために食事代までもコツコツ頑張ってくれていたここ一年のヘソクリは、相当頑張って貯めてくれていたんじゃないかとハッとさせられた。


「大地、ごめんね」
「え?何で謝んの?」
「帰りが遅いと文句言ったり、もっと家事も育児も手伝ってほしいとか、私いつも言ってたけどさ…」
「ははっ、いきなり何」
「大地が毎日仕事頑張ってるからこの家だって建てられたし、今日のこの指輪だって…」


言いながら、目の前が急速に滲んでいった。

妊娠、出産を経て母親になった私は、いつも私ばっかりが大変だと思っていた。
寝れない、しんどい。独身時代のように気軽に出かけられない状況が続くと、ストレスばかりが溜まってた。

子供たち二人が今よりもずっと幼かった頃は、風呂に入れる時間までに帰宅してくれないと私はいつも不機嫌だった。

大地が飲みに行って帰りが日付けが変わった時間になると一言二言では愚痴が止まらなくて、たくさんの嫌味をぶつけていた。

いいよね、大地はって。
苛立つことがあると決まって小言を言っていた。

でも、今はそんな自分が恥ずかしくて情けなくて。
巻き戻せるなら、この十年を今の気持ちのままやり直したくなった。
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