時には優しく…微笑みを
ガチャ…

「え?も、もう決まったのか?」

持っていたお茶碗を、激しくテーブルに置いた課長が私の顔を見た。
その目は戸惑っているように私は見えた。

「な、何かありました?」

「あ、いや…早いな、って。諒太から連絡あったのか?」

「はい。昨日仲川さんと会ってたんです。そこでいいところ見つけてくれて、今週末に部屋見てこようかと。そこで良かったら決めようと思ってます。これ以上、課長にご迷惑をかけられないので」

「そうか、しかし俺は迷惑なんて思ってないぞ…だからって急いで決めるなよ?仮住いを決めるんじゃないんだからな?」

「っ、はい。ありがとうございます」

どうしてこんなに優しいんだろう。課長、誤解してしまいますよ?
言えない言葉を飲み込んだ。

カチャッ

「あ…」

テーブルに置いていたお箸を取ろうとして、床に落としてしまった。
拾うとして、床にかがみ取ろうとした。

「…っ」

課長も拾ってくれようとしたその手が、当たってしまった。
慌てて手を引っ込めようとしたその手を、課長に握られてしまった。
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