時には優しく…微笑みを
課長に手を握られて動けなくなってしまった。

「あ、あの課長、手…」

「…っ、す、すまん」

私に声をかけられて、握っていた手を離してくれた。
握られたその手が熱く感じていた。どうして?課長。
何がしたいのか分からなくなっていた。

「櫻井…」

「あ!お風呂…」

何かを言おうとした課長の言葉を遮るように、私は大きな声を出して、お風呂場に逃げた。

洗面台で赤くなった頬を手で覆った。…課長、思い詰めた顔してたけど、なにかあったのかな。それに何か言おうとしてたけど、私その場にいられなくなって、わざと言葉を遮ってしまったけれど、申し訳ないことしちゃったかな。

「どう思う?」

鏡に写った自分に聞いてみたけど、答えなんて返ってくる訳もなく、気持ちを切り替えて、私は浴槽にお湯を溜めようとお風呂場で準備をしていた。

「櫻井…いいか?」

いつの間にか、課長がお風呂場まで来ていた。

「え?あ、は、はい。ど、どうしたんですか?…っ、きゃっ…」

慌ててお風呂場から出ようとした私は、足が滑り転けそうになった。

「あ、危ないっ」

痛い、と思ったお尻や頭に衝撃がなく、その代りに私の背中に腕が回され、ガシッと課長に抱きしめられていた。
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