扉に光るランプ〜落とした想いの物語〜
「…!?」



ふわっと乙近先輩の人差し指が私の唇に触れるように置かれる。



「阿賀波」



(…えっ)



「って呼んでよ?」



「……」



近い距離と唇から感じる指の体温に、何とも言えない困惑と居た堪れなさに、思わず頷いてしまう。



「ぁ…」



そしたら、嬉しそうにハニカム表情で笑った。



(笑うとクシャっとなってかわいいかも)



「っ」



でも、さすがに恥ずかしすぎてそろそろ離してほしいのだが、指で抑えられていて口が開けれない。



(ご、ごめんなさい)



状況に耐えれなくなり、心の中で謝るとそっと阿賀波先輩の手首を持ち口から離した。



「うん?」



「あ、あの、ちょっと離してほしくて」



「ああ、ごめんね。恥ずかしかった?」



「は、はい⋯」



恥ずかしすぎて俯く私だけど、阿賀波先輩は特に何とも思ってない顔をしていた。



「そうだよな、急にあんな事したらびっくりするもんな?」



「は、はい」



そう言うと、阿賀波先輩はそっと私から離れる。



ようやく離れてくれてほっとする。



別に嫌と言う訳ではないんだけど、恥ずかしさと居た堪れさがある訳で。



「じゃあ、これだとおあいこになるから、プラスマイナスじゃない?」



「え?」



謎な言葉を言うと、私の手の甲をそっと握って持ち上げられる。



そして、そのまま指に阿賀波先輩の唇が触れた。



「っ!?…ちょっえっえっ」



「ね?おあいこ」



困惑する私に対して嬉しそうに笑顔を向けてきた。



「なっ」



今日は災難な日なのでしょうか?と言いたいくらいに困惑ばかりだ。



「なんで、今日こんなんばっかりなの?」



「こんなん?
ああ、やっぱり瑠架に何かされてたんだ?」



「えっ」



なんで分かったの?



まるで分かってたかのいい方だ。



「まあ、いいや。
遠回りしたから、もう全員集まってるだろうね」



「えっあ、はい」



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