二人の距離の縮め方~弁護士は家政婦に恋をする~
学に秘密にしている事がある。

それは、自分がどうやって育ったかだ。
芽衣には母しかおらず、その母も自分が十七才の時に亡くなったことは話してある。

でも、その母親に育児放棄されていて、高校生になるまで、ほとんど施設で暮らしていた事を学は知らない。

芽衣には、大学に入ったばかりの頃、少しだけ親しくなった同じ夜学の男子学生がいた。
彼も働きながら学んでいる苦労人で、気兼ねする事もなく、節約を楽しみながら何度かデートをし、親近感が湧いた芽衣は、何気なく児童養護施設にいた時の話をしてしまった。

一瞬戸惑ってはいたが、笑顔で手を振って別れたのに……彼とはその日を境に二人で会うことはなくり、別の女子生徒と二人で一緒にいることを見かけるようになった。

ある時、芽衣はその女子生徒から話しかけられ、「彼と付き合っているの」と、嬉しそうに報告された。そして彼女は憐れみの仮面を被って言ったのだ。

「たとえ学生の間でも、親にも紹介できないような子とは付き合えないんですって」

芽衣には、勝ち誇った顔で去って行く彼女を、ただ黙って見送るしかできなかった。


 
学の事を好きになればなるほど不安になる。
遠巻きに、好意を寄せているままでいれば良かった。
ただ会話をしただけで、幸せな気分になれていた頃が懐かしい。

欲が出たのだ。そして自ら深みにはまって、もうそこから抜け出せない。
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