二人の距離の縮め方~弁護士は家政婦に恋をする~
じょうねつ
いつもなら上機嫌目覚める金曜日。学は明け方目を覚ますと、不安と苛立ちに襲われ、それっきり寝付けなかった。

一昨日のメッセージを最後に、芽衣からの連絡が途絶えている。既読の表示になっているのに、なんの返事もこない。二回ほど電話もしてみたが、無反応だった。

会いたいと言っていたのに断ってしまったから、機嫌を損ねてしまったのだろうか? それにしても音信不通にしなくても……。

学は一人悶々としていたのだが、今日はどのみち芽衣が仕事でやってくる日だ。幸い学の予定も、さほど忙しくなかったので、彼女が来るまで待っているつもりだった。

はやめに朝食を済ませ、ゆったりと新聞に目を通し始めた頃、スマホが着信を知らせた。芽衣からだった。

『……もしもし。学さん? すいません……具合が悪くて、今日はお休みさせてもらえますか?』

声を出すのも苦しそうな程のしゃがれた声で、時々咳き込みながら彼女は言った。

「それは構わないけど……大丈夫? いつから具合悪いの? 病院は?」

『……昨日から……ですけど、……ただの風邪です。寝てれば、……すぐ治ります……本当にごめんなさい』

芽衣の申し訳なさそうな態度が、かえって学を苛立たせた。

学にとっては、家政婦の仕事など本当はどうでもいい。それより恋人として、彼女が心を開いてくれない事が不満だった。

もし今日、彼女の仕事の派遣先が家でなければ、具合が悪くても、ずっと黙ってるつもりだったのか! ぶつけたくなった怒をぐっと飲み込んで、かわりにありきたりなお見舞いの言葉口にして通話を切った。

そうして、学はすぐに立ち上がる。
もう遠慮なんかしない。いい人のフリをして徐々に内側に攻め込もうなんて、気長な考えはやめだ。

苦しくても、誰にも頼ろうとしないのはなぜなのか? 頑なに住んでるアパートを見せないのはなぜなのか? 彼女が守る心の壁を、力ずくでも壊してしまおうと、心に決めた。
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