濡れた月の唄う夜
花嫁の契約
「羽織、僕と、その…付き合ってくれない?」
彼は、陽に透けるような茶色い髪を照れくさそうに掻きながら私に言った。

「…え…っ…」
私は飲みかけたラテを零しかけて思わずむせた。
「だ、大丈夫?ごめん、急に」
彼・羽月クロスは私の背中をそっと撫でて謝った。咳き込んで、一息ついた私はその顔を覗き込んだ。
白い肌。大きな緑がかった茶色の瞳が、心配そうにこちらを見ている。目が合うと、その瞳が笑う。
「あ、付き合うって、その…恋人としてってこと?」
そう聞けば、クロスは頰を軽く掻いて、うん、と頷く。
「できれば、そのあとも、一緒にいたい」
「そのあと?」
なんの事かピンとこない。
「…目を閉じて」
「え…っ」
分からないまま目を閉じると、唇に柔らかななにかが触れた。
「!」
目を開けると、クロスの顔が間近に見えた。
キスだった。
そっと、優しいクロスそのままの、まるで撫でるようなキス。私は、驚いたけれどそっと離れていくクロスの顔を綺麗だな、と思いながら見ていた。

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