濡れた月の唄う夜
クロスは恥ずかしそうに、だけどしっかりと私の手を握って下校途中の道を歩いていく。
綺麗だった。隣に並ぶ私が不思議なくらい、彼は綺麗だった。

クロスは帰国子女だ。
どうやらお母さんがフランス人らしい。らしい、というのは、話にしか聞いたことがないからだった。クロスは家政婦のみちよさんと一緒に一人で日本で暮らしている。家政婦のみちよさんとは何度か話をしたことがある。とても優しい家政婦さんだった。
恋人未満の私たちに、お茶を用意してくれたり、きっとやきもきしていただろうと思う。
けど、それも今日からは違う。
ちょっと、綺麗過ぎて隣に並ぶのが恥ずかしいけど、私は、彼に認められてれっきとした恋人同士になったのだ。
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