濡れた月の唄う夜
私は、その瞳を見ながら、大切なものが徐々に奪われていくとはどんなものなのだろうと、思いを巡らせていた。 
 この人の笑顔を、もう太陽の下で見ることができない。
 日に透ける髪を撫でることも、なくなるのだ。

 だけど、今、この時を拒絶してしまったら、もうこの人の笑顔には会えない。そんな気がした。

「羽織…」
「クロス。私、決めた」
 クロスが息を飲んだ。私は、その白い頬をそっと両手で包んだ。
「!」
 ひんやりと冷えた頬が、ぴくりと震えた。 

「私、あなたの花嫁になる」
 はっきりと、私は宣言した。
「羽織…」
 クロスは、困ったような、微笑むようなよくわからない顔をして、私の頬をその手で包んだ。
 その指は震えていた。
「いいの?」
「うん」

「ありがとう」
 
 クロスは、私を抱きしめた。そして、何時ものように優しくキスをした。

 私はこの時、勘違いをしていた。

 夜の世界には私達を祝福してくれる者ばかりだと、そう思っていた。

 夜の世界を知らないように、私達を奪うものが、存在していたことを、私は知らなかった。
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