最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

 東吾が心配そうに、こちらを見ている。

「里香」

 仕事中なのにその呼び方は駄目だ。それこそ今、誰かに聞かれたら、東吾を攻撃する格好の材料になる。

 東吾が私の目の前に立って、腰を折って目線を合わせた。せめて笑い返そうと思うのに、体から力が抜けてしまったように、何もできない。

 そのままそっと、唇が重なった。触れるだけのキスは、言葉よりずっと、私を気遣う気持ちが伝わってくる。

「駄目です。茉奈ちゃんから社長室での乳繰り合い禁止令が出されているので」
「……あの子、いつも言葉選びのセンスが古すぎないか?」
「同感です」

 東吾がしみじみ言うので、思わず深く頷いてしまった。
 少し力が戻ってきて、弱弱しいながら笑顔を浮かべると、東吾も少し笑ってから、そっと私を抱き寄せる。

「社長」
「心配するな」

 咎める声は無視して、私の顔を自分の胸に押し付けた。
 抜け出そうと思えばすぐにできるくらいの軽い力に、私は抵抗できなくて、自ら檻に囚われる。

「断るよ。銀行も会社も関係ない。結婚相手くらい自分で選ぶ」

 副社長は、何を企んでいるのか。美恵子夫人は、雅さんの話を聞いてどう思うだろうか。梶浦頭取を敵に回すようなことをしたら、財界での立場はどうなるだろう……。
 いろんな不安が浮かんでは、言葉にするのが怖くて、口に出さずに飲み込んでいく。

「俺を信じてくれ」

 東吾の胸にもたれかかって、体を預けた。体温と鼓動を感じながら、このままずっと、この優しい檻の中に閉じ込めていてくれたらいいのに、と思った。
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