最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

 私は用意した体温計をどん、と社長のデスクに置いた。社長はそれを見るなり嫌そうな顔をする。

「なんだ」
「体温計です」
「見ればわかる」
「熱を測ってください」
「いらないと言っただろう」
「いらない、じゃないんですよ。測る必要があると申し上げているんです。測ってみて熱がなければそれでよし、あればすぐに病院へ」
「行く必要はない。しまえ」
「あーだこーだ言ってても埒が明かないでしょう、ささっと測ればいいんですよ。熱がないならそれでおしまい、五分で済みます。測らないなら私はずっとここで言い続けますからね」

 頑なに拒否する社長の態度に丁寧に接するのが面倒になってきて、手荒に体温計を社長に押し付けた。社長も反論するのが疲れたのか、しぶしぶという感じで熱を測り始める。計測音が鳴って社長がその表示を見た瞬間、げ、という顔をして、すぐにケースにしまおうとするのをすかさず横から奪い取った。

「おいっ……」

 ――三十八度七分。高い。

「すぐに車を回します。松原(まつばら)さんに連絡を……」
「いらんと言ってるだろう。平熱の範囲内だ」

 電話をかけようと受話器に伸ばした私の手を妨害して、子供みたいなくだらない言い訳を口にする。
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