最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

 下に降りる途中で神崎室長に出会った。半分私に引きずられている社長の姿を見て少し驚いたようだけど、すぐに微笑に変わる。

「説得に加勢しようと思っていたんですが、どうやら余計なお世話だったみたいですね」

「おい、こいつの本性こんなのだって知ってたのか!」

 我に返ったように文句を言う社長を、室長が軽くいなす。

「あなたみたいな仕事バカにはこのくらいの人じゃないとついていけないでしょう?」

 おお、面と向かってバカって言った。

「そろそろ自分の限界を考えなさいと進言しようと思っていたところです。ほら見たことですか、やっぱり体調を崩したでしょう」

 室長にお説教をくらって、社長が見事に不貞腐れている。まるでお兄ちゃんに叱られた弟みたいだ。旧知の仲なのは知っていたけど、こんな関係性だとは思わなかった。

 室長は興味深く二人のやり取りを観察していた私に目を向ける。

「佐倉さん、申し訳ないですが病院までではなくて、部屋で休むまで付き添ってあげてくれませんか?」
「は? 部屋まで?」
「ええ」

 病院までは連れていくけどその後は会社に戻ろうと思っていた。部屋まで、ってそれ、社長の家に上がり込めってこと? それはちょっと、秘書の業務の範囲を超えてるっていうか、病人とはいえ男の人の家で二人きりになるのはちょっと……。

「お前、何勝手に」
「黙りなさい。あなた放っといたらどこにいても仕事しだすでしょう。ちゃんと休むか、見張りが必要です」

 不満そうな社長をひと睨みして黙らせてから、私に向かってにっこり微笑む。

「お願いします、佐倉さん。こんなこと頼めるのはあなたしかいないんです。襲われそうになったら殴り倒して構わないので」
「誰が襲うか」
「手がかかる上司ですみません。お願いできますよね?」

 嫌とは言わせない強固な笑みに、はい、と頷かざるを得なかった。
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