最愛宣言~クールな社長はウブな秘書を愛しすぎている~

 ごめんよう真木。だってほら、上に要望通したいって、自分でも言ってたんじゃん、ね?

「四課と三課の仕分けは私もずっと必要だと思っていた。とても有意義な意見だ、ぜひ詳しく話してもらいたい」

 心の中で謝り倒す私を尻目に、社長はロックグラスと枝豆の皿を手にずかずかと真木と私の間のお誕生日席に座り込む。

「ライフケミカルの真木君だね。優秀だと聞いている、話ができて嬉しい」
「は、あの、どうも……」

 状況を把握できない真木は、まじまじと社長の顔を凝視してから我に返ったらしく、凄まじい勢いで私のほうを見た。

「佐倉ぁっ? おい、なんだよこれ」
「いや、社長のたってのお願いでね、現場の声を直接お聞きになりたいってことで」
「本物? 本物の社長?」
「自己紹介が遅れたな。三ツ星シンセティック代表取締役の上條です」
「はっ、はあ、よく存じ上げております」

 社長がくそ真面目な顔で差し出した名刺を、畳に頭が付くほど深々と腰を折って押し頂いている。冷や汗たらたらの真木と好対照に社長はにやにや笑っていた。あの、楽しんでませんか、社長?

「佐倉君に、面白い意見を持った同期がいると紹介されてね。無理を言ってこの席を設けてもらったんだ。今日は私が社長ということは忘れて、腹を割って話ができると嬉しい」
「はあ」
「まあ飲もう。まずは乾杯だ。わが社の輝かしい未来に」

 社長がすっとグラスを掲げたので、私も同調してジョッキを持ち上げると、真木も慌てたように日本酒のグラスに手をかける。かちんと音を立ててグラスをぶつけると、社長はごくごくおいしそうに喉をのらして水割りを飲み干した。
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