死席簿〜返事をしなければ即、死亡


あと1票で、水口智花は死ぬ。


諦めたのか具合が悪いのか、水口は机に顔を伏せたまま動かない。クラスメイトの裏切りは、身を切られる思いだろう。


諸岡の手が、投票用紙に伸びる。


その時、僕はふと思った。


いや、思ったが浮かばなかった。


水口智花という生徒の、特徴が。


いじめられていたわけではない。可もなく不可もないという、地味な印象の生徒だった。


それなのに、こうも票が重なるだろうか?


5票だ。


水口智花の下には【正】の文字が出来上がっている。


示し合わせた?いや、そんな時間があったか?


「ちょっと待て」


今まさに名前を読み上げようとしていた、諸岡を制する。


僕は、生徒たちを注意深く見やった__?


相変わらず、水口は顔を上げない。


さっきからずっとだ。


ずっ、と?


「水口智花」


僕は、名前を呼んだ。


数秒が経過する。


それでも水口智花は顔を上げない。


さらに数秒が経った。


それなのに、苦しむ様子がない。本来なら、今頃は目を剥き出しにして喉を掻きむしっているはずなのに__?


「水口智花‼︎」


全く反応しない水口の席に向かい、机に拳を叩きつけるも動きはない。


どういうことだ⁉︎


「おい、起きろ‼︎」


肩を揺さぶると、水口はそのまま床に崩れ落ちた。


まさか、もう死んでいた?


うつ伏せに倒れた水口を、足先でひっくり返す。


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