こじれた恋のほどき方~肉食系上司の密かなる献身~
それと同時に、グラスに大きな氷が入ったウィスキーロックがマスターから手渡される。

「ひとまず乾杯だな」

乾杯だなんてそんな気分でもないのに、しかもまたこの男に会ってしまった。“婚約者”という言葉を思い出すと、どうしても頭から離れない。先日、父と三人で会ったことなんて、まるで嘘のように現実味がない。

「私が最上さんの婚約者だなんて、やっぱり冗談ですよね?」

「冗談? そんなわけないだろ、俺はお前が気に入ったと言っているんだ。ほかに男がいるなら、まずはそこから手を切ってもらおうか」

手を切る方法があるなら教えて欲しい。まさか、私が社内で不倫をしているなんて知ったら、とんだ女だと、呆れ果てて婚約者の話はなくなるかも知れない。そう思ったけれど、話がなくなるということはイコール父の会社も倒産するということだ。どっちに転んでも凶しかない。

「はぁぁぁ」

私はグビグビとジントニックを煽ると、頭を抱えてカウンターに額を押し付けた。
そうだ。これだけは言っておきたい。言わなくちゃ。
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