真実(まこと)の愛
「……恭介、安心して。ソーテルヌのシャトー・ディケムとまでは言わないから」
背後から、魅惑的に響く声が聞こえてきた。
久城 礼子が松波の名前を呼び捨てにしていた。
「翔くん、今夜はどんなワインをいただけるのかしら?恭介と愉しみにして来たのよ」
杉山のことも下の名前で呼んでいる。
麻琴は見かけたことがなかったが、彼女はかなりの「常連」のようだ。
「ソーテルヌでしたら、シャトー・ギローならございますよ。バルザックでよろしければ、シャトー・クリマンやシャトー・クーテはいかがでしょうか」
杉山が奥のワインセラーに眠るフランス産貴腐ワインのボトルを思い浮かべながら応じていた。
彼はソムリエの資格も持っている。