真実(まこと)の愛

そもそも松波にとっては久城 礼子が「本命」で、麻琴は「あわよくば」程度の遊び相手なのかもしれない。

それを証拠に、松波は麻琴を見てもまったく声すらかけなかったではないか。「本命の恋人」に麻琴の存在を知られたくなかったからだろう。

青山だって「本命」の稍が現れたとたん、手のひらを返したように冷淡になり、とっとと結婚したかと思えば『妻が嫌がるから、自分の名前をもう呼び捨てにしないでくれ』と言ってきたのだ。

……わたしって、どうしてこんなに「男運」がないのかしら?

久城 礼子ほどではないにせよ、容姿も家柄もそこそこよりは上のはずだ。実際に、今までかなりモテた方だ。

子どもの頃、自分の未来がこんなふうになっているだなんて、思いもよらなかった。

あの頃、漠然とではあるが思い描いていた自分の「未来」には、今の歳には間違いなく愛する人と結婚していて、かわいい子どもの一人や二人は存在していた。

……どこで、どう間違って、こんなふうな「現在」になってしまったのかしら?

そのとき、スマホの着信音が鳴った。
麻琴は起き上がって、シェードランプのオレンジ色の灯りを頼りにヘッドボードのスマホを手にした。


発信者は……松波だった。

< 130 / 296 >

この作品をシェア

pagetop