真実(まこと)の愛
目を閉じても、今夜Viscumに松波と現れた久城 礼子のことが頭から離れない。
彼女は自身の輝かしいキャリアもさることながら「それだけ」の女ではなかった。
彼女の生家、久城家は明治の世「華族」の家柄で「久城子爵」と呼ばれていた。血筋をずーっとたどると、やんごとなきお方まで行き着く家系だ。
しかし戦後、その特権階級を剥奪されてしまい、同じ立場だった万里小路家と一緒に(株)アディドバリューを興した。現在は、礼子の父親が代表取締役会長に就いている。
ファクトリー・オートメーションの総合メーカーであるアディドバリュー社は、工場で製品を生産するのに欠かせない自動制御機器・計測機器・情報機器などの開発および製造・販売をしている会社だ。
取引する会社は、TOMITA自動車をはじめとする自動車産業はもちろんのこと、半導体や電子・電気機器、そして通信・機械・科学・薬品・食品関連など多岐に渡る。
さらに、就活する学生からは「日本一給料の高い会社」として、絶大なる人気を誇る大企業なのである。
……その容姿も、家柄も、自身のキャリアも、松波先生にぴったりの女じゃないの。