真実(まこと)の愛

しかし、麻琴はもう二十歳(はたち)やそこらのかわいい小娘ではない。アラサーの端くれとして、恭介のくちびるはしっかりと受け止めた。

だからといって、「その先」は違う。
易々(やすやす)とは許しはしない。

恭介の舌が追えば、麻琴の舌が逃げる。

だが、二十代の頃に(若気の至りで礼子(あやこ)に隠れて)慣らした恭介も「試合巧者」だった。

いったん、さっと退()いたのだ。
そうやって、もの足りなくなった麻琴が追ってくるのを待ち受ける。

そんな駆け引きと攻防の末に、互いの舌がようやく出逢った。

すると、とたんに口の中で二つの舌が絡みつき、そして、一つに溶け合う。こうなると、アラサーも試合巧者もない。

結局のところ、焦らされたのはお互いだった。

ワンテーブルしかないこの個室に、二人のくちびるから発せられる淫らな音だけが響く。


……まずいわ、このキス。
なんだか、ふーっと気が遠くなって、なぁーんにも考えられなくなってしまいそう。

知らず識らずのうちに、麻琴は腰から砕けそうになっていた。そのくらい、恭介とのキスに心を持っていかれてしまった。自然と、しがみつくような格好で恭介の首に手を回す。

恭介の右手は、その豊かな胸と対比して扇動的としか思えないほどくびれた麻琴の腰をがっちりと支えつつ、左手では彼女のやわらかなグレージュブラウンの髪をもどかしげに何度も掻き上げていた。

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