真実(まこと)の愛

「……失礼します」

杉山が麻琴の前のビアグラスをすっと下げて、代わりに琥珀色に輝くシングルモルトのグラスを置く。

彼女がボトルキープしているスコッチウィスキー、ボウモア十二年のダブルロックだ。

「……なんだよ、翔。邪魔する気かよ?
イギリスから帰国してこの店に来たとき、カウンターで一人、麻琴さんが美しく呑んでる姿を見て僕が一目惚れしたの、知ってるだろ?
せっかくこうやって話せるようになるまで漕ぎ着けた、っていうのに」

松波が端整な顔を歪ませて鼻白む。

「はい、そうでしたね。
……では、恭介さまはいつものこちらです」

杉山はあっさりと流す。
そして、松波のビアグラスを下げて、代わりにバカラのタリランドを置く。

まるでダイヤモンドをブリリアントカットしたようにガラスを削いだそのグラスは、店の照明に反射して、琥珀色の中身を信じられないほど多彩な色に輝かせている。

タリランドの中身は、松波がキープするボトルのアイリッシュウィスキー、カネマラ十二年のストレートだ。

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