真実(まこと)の愛
「それに今、『一人世帯』っていうのが増えてるんですよねぇ」
紗英がタブレットのディスプレイに映し出されたグラフを見ながら言う。
「内閣府の統計によると……全世帯の中での割合が一九六〇年代にはたった五・一パーセントだったのが、二〇一〇年には三十三・四パーセントです」
「へぇっ、そんなにも⁉︎」という雰囲気になる。
「しかも『多様化』してまして、結婚しない若年層だけじゃなくて、中高年層の割合が増えているそうなんですよ」
「連れ合いに先立たれるっていうのが多いんだろうが、別れて独り身になるってのもあるんだろうな」
守永が肩を竦めて苦笑する。
身をもって「体験」した彼を、麻琴は冷ややかな目で見る。
……速攻で再婚したくせに。
「じゃあ、うちは店舗に行かなくても手に入る通販会社だから、それこそ多種多様な『一人世帯』をターゲットにできるってわけね」
「まぁ……だからこその『難しさ』もありますがね」
上林が相変わらず苦い言葉を吐く。
「……とにかく、『若い働く女性』だけじゃなく、いろんな『一人暮らし』の人たちをターゲットにして、イチから考えてみるわ」
なんだか麻琴には、新しいプランが湧き上がってきそうな予感がしていた。
思わず、通勤用にずっと使い続けているエルメスのバルパライソから、クロッキーブックを取り出す。浮かんできたアイディアやデザインを書き留めるには、autoCADよりずっと手っ取り早い。