真実(まこと)の愛

松波に通されて麻琴は医務室へ入る。

医師の使うデスクやキャビネットはもちろん、気分の悪くなった社員が(やす)むベッドまで、もちろん自社製品である。

麻琴はリクライニングになる診療用のチェアに促された。

よく欧米の映画やドラマで登場人物がカウンセリングを受ける際に身を委ねるチェアのようだ。
実際に腰かけると、心までほぐされそうになるほどの座り心地の良さだ。

……こんなの、うちで扱ってたっけ?

「このチェアだけは社長に言って、アメリカの専門業者のものを取り寄せてもらったんだよ」

顔の強張(こわば)りがとれてリラックスした表情になった麻琴を見て、松波が「してやったり」とニヤッと笑う。

「それで……これが厚生労働省の『職業性ストレス簡易調査票』を元にして、僕なりに考えて作ってみたストレスチェックの質問シートなんだけどね」

麻琴は差し出されたタブレットを受け取る。

「どうせ入力しなければならないんだったらさ、このシートを印字せずにこのまま社内メールで送って、それぞれの社員には直接入力したあと送り返してもらおうと思ってね。事務の人たちの手を煩わすこともなくて、一石二鳥だと思わない?」

……なるほど。
でも、集計のために「紙」から入力するはずだった総務の女子社員は、その「仕事」がなくなって歯ぎしりするだろうなぁ。

「……で、どうだろう?
麻琴さんの意見を聞かせてよ?」

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