最強の暗黒龍は喪女にゾッコン ~VRMMOの裏ボスが子作り前提で求愛してきました~
「夫である我が態々出迎えてやったと言うのに。なんなのだ、その反応は」
「だーかーらー、妻じゃないですから! 玄関で出待ちしないでください。あー、心臓が止まるかと思った」
真っ暗な玄関に、腰にシーツを巻いた家族でも、ましてや友人でもない大男が立っていたら、誰だって腰を抜かすほど驚くだろう。
落とした荷物を拾い集めてから、全開にしたドア越しに通路を確認する。
誰にも見られていなかったことを確認してから、ドアを閉める。
「おわ! な、なんですか?」
無言で近づいて来たエヴィエニスさんは、ズイと私に顔を近づけて、スンスンと鼻を鳴らした。
その仕草は、主人の帰りを心待ちにしていた飼い犬みたいだ。
ハスキー犬とか、レトリバーとか、シェパードとか……その辺りの大型犬だろうか。
それにしてもイケメンと言う生き物は、どうして睫毛が長いんだろう。
将来的には、砂漠でラクダと一緒に暮らす気なのかな?
「……雄の臭いがする」
肩から首筋付近の臭いを嗅いだエヴィエニスさんが、低く唸った。
言ってることが、兄の安眠を妨げるヤンデレな妹が目印のドラマCDみたいなんだけど。
怖いんだけど、首筋に息が当たってくすぐったい。
男性にここまで急接近されるのは、生まれて初めてだ。
私は、マネキンみたいにその場で硬直する。