ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「いい結婚式だったね」
引出物を頂き、安藤さんと別れたあと、実松くんをバーに誘った。
そこでモーツァルトの午後をふたつ頼み、届くまでの間、式を振り返る。
「ひと月後には旦那さん側の関係者の前で平井さんをお披露目するお茶振舞いが予定されているんだって」
「大変だな」
旦那さんは業界ではそこそこ名の通った人だから仕方ないらしい。
今日の式は人数が少ない分、アットホームな雰囲気で、新郎新婦ともたくさん話せたけど、お茶振舞いではそうはいかないだろう。
堅苦しい式にならなければいい、と願うばかりだ。
「モーツァルトの午後になります」
バーテンダーから差し出されたカクテル。
グラスを手に取った実松くんの様子をこっそり伺う。
「お。美味い」
驚いたようにグラスの中身を見た実松くん。
その表情を見て、私は笑顔になる。
「味覚って大事だね」
「何の話だ?」
分からなくていい。
首を小さく左右に振り、私も甘いカクテルを飲む。
「あ、そうだ」
口の中に紅茶の甘さが広がったのをキッカケに思い出した。
鞄から手のひらサイズの箱を取り出し、実松くんに渡す。
「なに?」
受け取りながら首を傾げた実松くん。
「チョコレート。バレンタインだから」
そう言うと、箱と私を見比べた。