ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「寒いだろ。早く乗って」
実松くんが助手席のドアを開けてくれた。
「手慣れてるね」
「そうか?」
女性扱いされることに慣れていない私にとって、エスコートは恥ずかしさを伴う。
直前に褒められたこともあり、動きがぎこちなくなってしまう。
「いつも通り、ぞんざいに扱われる方がいいな」
運転席に乗り込んだ実松くんに言うと、ハハッと笑った。
「ぞんざいな扱いは変に意識させて仕事に支障が出るのは嫌だったから、っていうのと、俺の気持ちがバレないようにしてたせいだ。ハハ。ガキみたいだよな。でも今はもう気持ち伝えてあるから、大事に扱うよ」
横目で見られて、柔らかく微笑まれた。
その優しく慈愛のこもった表情に触れて、胸がトクンと反応した。
見つめ合った時間はたったの1、2秒に過ぎないのに、早まった鼓動が治るまでは時間が掛かった。
「それよりメイク道具は持ってきたか?」
実松くんが話題を変えた。
「持ってきたよ」
鞄の中からポーチを出し、見せる。
事前に連絡をもらってきたから最低限のものは持ってきたのだ。
「温泉に行くんだよね?」
「そ。慰労とお礼を兼ねてな。というわけで早速出発するぞ」
実松くんは明るい声でそう言うと、アクセルを踏んだ。