ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
車内には音楽が流れている。
普段聞かない音楽に、興味を惹かれる。
「これってジャズピアノ?」
「お。よく知ってたな。詳しいのか?ピアノ弾けるとか?」
横目でチラッと私の方を見た実松くんに首を振ってみせる。
「ピアノは習いたかったんだけど、習わせてくれなかったんだ」
ピアノを習うとなると、ピアノが自宅に必要になる。
安い電子ピアノもあるけど、それを買って、続かなかったら無駄だと言われて、それもそうかと案外すんなり諦めた。
「実松くんは?ピアノ弾ける?」
「簡単なものなら」
弾けるのか。
それはすごい。
「ジャズも?」
「いや、さすがにこれは無理」
ハハッと笑った実松くんから、また音楽に耳を傾ける。
そしてしばらく聞いていたらジャズピアノには色々な曲があることに気づいた。
「ゆっくりの曲とか、テンション高い曲とか、様々なんだね」
「どの曲が好み?」
そう聞かれて思い出すように考えてみる。
ゆっくりな曲は癒しを与えてくれて、テンション高い曲は元気を分けてくれた。
「明るい曲がいいかな。私、カントリーの音楽が好きだから」
「へぇ。俺はそういうの聞かないからオススメあったら今度貸して」
聞かないからといって、否定するのではなく、共有しようとしてくれる意思が嬉しい。
自宅にあるCDの中からなにを貸そうか、考えるのも楽しかった。
それになにより、自分の知らない世界を知ることが出来ることが楽しい。
目的地に着くまでに実松くんが話してくれた趣味のテニスの話や、競馬の話、海外の話はどれも知らないことばかりで何時間でも聞いていられるほど、楽しかった。
楽し過ぎて、どうしてもっと早く、こういうプライベートな話をしなかったのだろう、とさえ思った。
もっと早く、こんな風に仲良くなっていたらきっと私は実松くんのこと、好きになっていた。
こんなに一緒にいて居心地良く、楽しくいられる人とは出会ったことがないから。