俺様外科医と偽装結婚いたします
「交際を続けても肩身の狭い思いをするだけだというのなら、これ以上無理しなくていいよ。今回はご縁がなかったということにして、この家でまた一から幸せを探せばいい。咲良の幸せを願っていたはずなのに本当に私は何をやっているんだか」
言い終えると、お祖母ちゃんは目尻にたまった涙を指先でぬぐいながら私に背を向けた。そのまま急ぎ足で店の奥にある扉に向かい、自宅へと姿を消す。
今まで通りで良い。お祖母ちゃんの言葉で自分を縛り付けていた鎖がぼろぼろと崩れ落ちて心が軽くなっていく。
一方で、自分の望んでいた未来を得られたはずなのに、突然真っ白な空間に放り出されてしまったような気分になり喜ぶことができなかった。
交際しなくていい。それはもう環さんとの偽りの関係を続ける理由がなくなってしまったことを意味する。
終わりにしたくない。環さんの恋人でいたい。そばにいてほしい。これからももっとずっと……。
込み上げてくる思いが苦しくて唇を強く噛む。
いずれは終わると分かっていたのに、その未来へ速やかに向かうための切符を手にして実感してしまった。私には環さんが必要なんだと。
大きな不安感に飲み込まれて、私は呆然と立ち尽くした。