俺様外科医と偽装結婚いたします
船上パーティでの思い出話だったりその後のみんなの反応を教えてもらったり、それから来週末に食事の約束をしたりと会話は弾んでいるというのに、この話だけは言えずにいる。
環さんは私がこの偽りの関係を受け入れた理由は、お祖母ちゃんから結婚しろとうるさく言われないようにするためだと思っている。
その心配がなくなったと分かったら、だったらそろそろこの関係を終わらせるべきかもしれないなと言い出しそうで怖いのだ。
偽の関係でも良いからこのままでいたいと言ってもきっと無駄だ。自分に気があると知ってしまったら余計に私を切り捨てようとするかもしれない。
だから私は口を閉ざして、なにかの拍子でバレないことを願うばかりである。
お祖母ちゃんが環さんや銀之助さんに何か言わないと良いなと心配していると、ふっと菫さんの顔が頭に浮かんできた。
お祖母ちゃんだけじゃなく彼女もそうだ。環さんに色々聞き出そうとしなければいいけどと不安を募らせながら、自転車のペダルに乗せた足に力を込めた。
自転車を走らせて通りの先に菫さんの住む立派なマンションが見えてくると、自然とペダルを漕ぐ力が弱まっていった。