俺様外科医と偽装結婚いたします


「なんでもどうぞ?」

「……いえ。特に……まったく」


「まったく興味がありません」と本音をこぼしそうになり、私は慌てて口をつぐむ。

しまったと身を強張らせながら銀之助さんへと視線を移動させると、自分を見つめている寂しそうな眼差しに気付かされ、心の中で苦い思いが広がる。


「環の傍に、明るく思いやりのある咲良さんのような女性がいてくれたらと考えていましたが……やっぱりうちの孫では、咲良さんのお眼鏡にかないませんか?」

「とんでもないっ!」


銀之助さんの切なげな言葉に被せるように、お祖母ちゃんがひどく大きな焦り声を発する。


「逆ですよ。環さんのように立派な方と比べたら、咲良じゃ何もかもが未熟すぎて。比べるのすら申し訳ない」


言い草に対しムッとするけれど、反論の余地はない。お祖母ちゃんに反抗的な視線のみを送った時、小さく環さんが息を吐いた。


「未熟さで言うなら、俺も負けていないかと。仕事しか興味を持てずに生きていますから。だから俺よりも咲良さんの方が、より多くのものを見て、感じて、学んでいるかもしれません。俺を立派だと言ってもらえるのなら、咲良さんだって立派です」

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