俺様外科医と偽装結婚いたします
苛立ちをぶつけながら詰め寄っても、彼は少しも動じることなく私を冷ややかに見降ろし続ける。そんな余裕さえ感じる態度も癪に障り、私の怒りが加速していく。
「教えてあげる! 私は毎朝六時に家を出てランニングすると決めてるの! これだけは絶対に譲らないから! 私を見たくないって言うなら、そっちが時間をずらしなさいよね! 分かった!?」
「なんで被害者の俺がストーカーの要求をのまなくちゃいけない?」
「だから私はストーカーじゃないって言ってるでしょ!?」
苛立ちが募っていく。叫び出したい衝動を抑え込むように深呼吸し、冷静になれと心の中で繰り返す。
六時に走り始めるのが私にとってベストな時間であり、習慣付いてしまってもいるため、今更変えたくない。
そして先ほど彼は「朝走る時」と言った。それなら昼走る時、もしくは夜走る時があったとしてもおかしくない。
「走るのが違う時間帯でも大丈夫っていうなら、そうしてくれませんか? 私の顔、見たくないでしょ?」
私は店の仕事で毎日くたくたになるからか、夜走る気持ちにはなれない。だから彼が時間をずらしてくれさえすれば、全てが丸く収まる……はずなのだ。