俺様外科医と偽装結婚いたします
陸翔を黙らせることには成功したけれど、しっかりと先の台詞を聞いていた川元さんの興味までをも削ぐことはできなかった。
「院長が? どういうことだよ」
少し身を乗り出し気味に、興味津々に聞いてくる。
環さんと私はもちろん陸翔までもが口を閉ざしてしまったため、川元さんが「おいおい」と不満を呟いた時、「もしかして」と菫さんがポカンと口を開いた。
「この前の話と関係ある?」
ぎくりとした私を見て、菫さんはすべてを悟ったようだった。
「常連さんが院長で、そのお孫さんが……」
菫さんは瞬きを頻繁に繰り返しながら、話してしまったことを後悔する私とうんざり顔の環さんを繰り返し交互に見た。
「咲良のお見合い相手って、久郷先輩だったの!?」
「お見合いって、またか!!」
菫さんの驚きに混ざり合うように川元さんも声を大きくさせたけれど、「また?」と呟き返した陸翔の声にハッとし、気遣うように口を閉じた。
陸翔が話かけようとした瞬間、お客が二名来店し、カンター席の男性客からも「すみません」と声が上がった。
私と陸翔はそれぞれに対応すべく、すぐに環さんたちのいるテーブルを離れていく。