アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
そして教授はある土地で採取した土から新種の放線菌を発見し、その放線菌が新たな抗生物質の開発に繋がると確信したのだが、その直後、大学の研究所が火事になり、保管していた放線菌の株が全て灰にってしまった。
ショックを受けた教授は心労で倒れ、更に脳梗塞を発症して半年経った今でも意識が戻っていないそうだ。
「残された准教授や学生達が教授の研究を引き継ぐことになったんだが、肝心の放線菌がどこで採取したものか分からない。
それを知っているのは、採取した教授だけ。採取した場所を記録した資料も燃えてしまったからな」
だが、ひとりの学生が以前、教授がこの地域の山の中の沼地で採取したと聞いていたことが分かった。
「だから、ここへ?」
「あぁ、いい具合にウチの研究所が近くにあったから、すぐに異動願いを出したんだ」
ってことは、何か問題を起こして左遷されたワケじゃなかったんだ……
「でも、こんなことが会社にバレたらマズいんじゃないんですか?」
「まぁな。でも、このことを知っているのはお前だけ。お前が黙っていればバレることはない。まさか、上司を売るような卑怯なマネ……しないよな?」
凄い眼力で睨まれ、その圧に一瞬たじろぐ。
「い、言いませんよ。面倒なことに巻き込まれるのはごめんですから」
既に巻き込まれている感は否めないが、とにかくこの疫病神とこれ以上、深く関わりたくない。
しかし彼の方は、そうは思っていなかったようで……
「それに、事情を知ったお前はもう立派な共犯だ」
「はぁ? 勝手に共犯にしないでください!」