アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
命の危険に晒された上に、共犯だなんて冗談じゃない。しかし今ここで並木主任と言い争うのは時間の無駄。
納得いかなかったが仕方なく作業を続け、池の周りの土を採取し終えた頃には、日が傾いていた。
慌てて来た道を戻り始めたが、途中で太陽が山の陰に入ると一気に暗くなり、気温も急降下。
早く車がある所まで戻らなくてはと気持ちが急くも、既に痺れて感覚がなくなっている足では思うように歩けない。それに、下り道は不安定で細心の注意を払っていないと滑り落ちそうになる。
だから目を凝らし、安全な場所を選んで進んでいたのに、落ち葉で隠れていた窪みに気付くことができなかった。足を取られ体が大きく仰け反る。
「わわっ!」
このまま急な坂道を転げ落ちればどうなるか容易に想像がつき、全身の血が引いていく。が、その時、後ろから伸びてきた腕に抱きかかえられ、間一髪、踏みとどまることができた。
「バカ、気を付けろ!」
反論する余裕もなく、足元の小石が転げ落ちて行く様を呆然と眺めていると、暖かいモノがフワリと私の肩に乗っかった。
「あ……」
それは、並木主任が着ていたダウンジャケット。彼の温もりが残るダウンジャケットは、私の冷え切った体を優しく温めてくれる。でも……
「並木主任、風邪引いちゃいますよ? 大丈夫ですか?」
「俺の心配をしてくれるのか? 嬉しいね」
私はただ、並木主任が薄着になって寒いんじゃないかと思っただけなのに、彼がニヤリと笑うから、変な誤解をされたのではと焦ってしまう。
そんな私を見て、またフッと笑った並木主任がいきなり腰に手をまわしてきた。
「な、何するんですか!」
「危なっかしいから支えてやってるんだ。黙って歩け」