アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

そんなこと言われても、男性とこんなに密着したのは生まれて初めて。意識するなと言う方が無理だ。


今まで寒さで凍り付きそうだった体がジワジワと熱くなり、心拍数も急上昇。騒ぎ出した心臓の音が密着している並木主任に伝わって、また変な誤解をされたらどうしようと焦ってしまう。


でも、並木主任の腕って凄く力強い。採取した土が入っているアルミケースは相当な重さになっているはずなのに、更に私の体を支え、この崖のような急な坂道を平気で歩いて行く。


それに、彼の髪が揺れる度に私の鼻孔を擽るこの香り……悪くない。


……って、私ったら何考えてるのよ! この男は最低最悪の疫病神なんだよ。こんな怖い思いをしているのも全て並木主任のせいなんだから!


一瞬でも並木主任を好意的な目で見てしまった自分を心の中で激しく叱責していると、木々の合間からシルバーの社用車がチラリと見え、感動して泣きそうになる。


あぁ……車だぁ……


だから車に辿り着いた瞬間、嬉しさのあまりボンネットに覆い被さり、車体に頬を擦り付けて大絶叫。


「会いたかったよ~! 生きて帰って来れて良かった~」


しかし並木主任は特に喜んでいる様子もなく、淡々と車のトランクに荷物を積み込んでいる。


「生きて帰っ来れたなんて、大げさなヤツだな」

「大げさじゃないですよ。熊に出会わなくて本当に良かった……」


すると今までクールにすましていた彼がポカンとした顔で私を凝視した。


「まさか……お前、本当に熊が出ると思っていたのか?」

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