アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

お願いだから、もうそれ以上何も言わないで……


祈るようにこっそり手を合わせていると、車が国道に出る手前の赤信号で停車し、並木主任が車内のデジタル時計をチラリと見た。


「もう五時半か……定時過ぎちまったから、このまま直帰するか……」


直帰って……もう会社に戻らないってこと? いやいや、それは困る。


「私は直帰しません。会社に戻ります」


そう言ったのに、並木主任は会社に電話すると私も一緒に直帰すると言ってしまった。


「並木主任、何聞いてたんですか? 私、戻るって言いましたよね?」

「その薄汚い格好で戻るつもりか?」

「あ……」


見れば、ジャージは泥だらけで、あちらこちらに正体不明の植物がくっ付いている。


借り物だから汚さないよう気を付けていたけど、途中でそれどころじゃなくなって見事にドロドロだ。


「髪もボサボサだし、メイクも落ちてるぞ」

「ひぃっ! 本当ですか?」

「あぁ、こんな汚れたままじゃ気持ち悪いからサッパリして帰ろう」


えっ? えっ? サッパリってどういうこと?


なんだか凄くイヤな予感がしたが、予想が当たっていたらと思うと怖くて聞けない。私が戸惑い動揺している間も車は快調に国道をひた走り、気付けば街の中心街を通り越していた。


そして見えてきたのは、ネオン瞬く怪しいホテル街。


まさか……イヤな予感は的中? ラブホテルでサッパリするつもりなの?


あ、もしかして、山を登る前に私がキスなんて挨拶みたいなものだ……なんて言ったから、簡単に抱ける女だと勘違いしたんじゃあ……

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