アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
廊下を気にしつつスマホのディスプレイを確認してみると、送信者は山辺部長だった。
《先日話した新会社のことなんだが、海外の製薬会社と共同経営になるそうだね。それでだ、参加する海外の会社の中で、経営に一番影響力がある会社を教えて欲しい。なるべく早く頼むよ》
いよいよ山辺部長が動き出した。愁に報告しないと……
そう思ってスマホをポケットにしまった時だった。とんでもないことが頭に浮かび、全身に鳥肌が立つ。
「まさか、山辺部長の仲間って……いや、いくらなんでも、そんなこと……」
震える声でそう呟くと、廊下の方からピンヒールの足音が聞こえてきて今度は顔が引きつる。
私が山辺部長の仲間かもと疑ったのは、今まさにトイレのドアの前を通り過ぎて行った人物。根本課長だ。
さっきのあの電話の相手は山辺部長だったんじゃあ……
根本課長がひつこく私の気持ちを聞いたのは、私が本当に愁と繋がっていないか、そのことを確かめる為だとしたら?
山辺部長は私を完全に信じたワケじゃなかったんだ。だから根本課長を使って私の本心を探ろうとした。その証拠に、根本課長が大丈夫だと報告した直後に山辺部長からメールがきたもの。
でも、社長の身内の根本課長が、どうして会社を裏切るようなことを?
もちろん証拠はないから絶対とは言えない。あくまでもこれは私の勝手な想像だ。けれど、疑わしいのは確か。
――が、それを会議を終え常務室に戻って来た愁に話すと……大爆笑された。
「バカじゃね? 千尋がスパイなワケないだろ?」