アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

私がどんなに可能性を説いても、幼馴染みの根本課長を信頼しきっている愁は聞く耳を持たない。


「いいか? 千尋は曲がったことが大嫌いなんだ。論外だな」


それでも食い下がると愁はパソコンのマウスから手を放し、デスクに両肘を付いて呆れたようにため息を付く。


「千尋は仕事にプライベートを持ち込むことを由としない。以前に恋愛絡みのゴタゴタがあって苦労したみたいだし……上司と部下が恋愛関係になって仕事に支障が出るのが一番困るって言ってたよ」


それならと、根本課長が"話しを進めてください"と言った意味を訊ねてみたのだけど「さぁな、お前の聞き間違いじゃないのか?」って呑気な答えが返ってきた。


「そんなことより、山辺部長からメールがきたんだろ? なんて言ってきたんだ?」


そうだった。一番大事なことを言い忘れていた。


スーツのポケットからスマホを取り出し、メールの画面を開いてデスクの上に置く。愁は暫くの間、食い入るようにディスプレイを眺めていたが、視線を上げたとたん切れ長の目を吊り上げ、吐き捨てるように言う。


「……経営に一番影響力がある会社を教えろだと? ふざけやがって!」


この文章から、山辺部長は合同会社設立を妨害しようとしているのは明らか。


愁が言うには、おそらくその一番影響力のある会社にバイオコーポレーションの良くない情報を流し、合同会社の話しを頓挫させようと考えているんのだろうと……


「山辺部長には、なんて返せばいいですか?」


私の問に愁は小さく首を振り「少し時間をくれ」と呟いた。

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