アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

――十二月三十一日、大晦日。


昨日、実家の母親が私達とお正月を一緒に過ごす為、東京に出て来た。久しぶりの家族揃っての夕食は賑やかで、夜中まで笑い声が響いていた。


そして今日は、お昼から母親とキッチンでおせちの用意をしていたんだけど、さっきからダイニングの椅子に座って新聞を読んでいる愁がチラチラとこちらを見ては頬を緩ませている。


「なんですか? さっきから何度もこっちを見て」

「んっ? 実家に居た時と同じだなぁって思ってな。やっぱりこの光景が一番落ち着く」

「翔馬も戻って来たしね」


ずっと彼女の早紀さんのマンションに入り浸り、なかなか帰って来なかった翔馬に嫌味を言うと、リビングでスマホをいじっていた翔馬がすかさず反論する。


「俺は姉貴と八神さんに気を使って早紀ちゃんのマンションに行ってたんだぞ。そんなことも分かんないのかよ」

「はいはい、余計な気を使ってくれて有難う」


相変わらずの私と翔馬のやり取りを母親は笑顔で聞いていたが、ふと包丁を持つ手を止め独り言のように呟く。


「翔馬の彼女にも会ってみたいわね~」


しかし早紀さんも年末年始は家族と過ごすそうで、都内の実家に帰ったそうだ。


「正月明けなら大丈夫だと思うから連れて来るよ」

「そう、でも、仕事があるから三日には帰らなきゃいけないし……また次の機会にするわ」

「母さんも来月にはこっちに引っ越して来るんだから、その時にゆっくり会えばいいよ」


そう声を掛けたのだが、なぜか母親は微妙な笑みを浮かべ、再び包丁を動かし始める。

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