アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

その様子がずっと気になっていた。なので、愁がお風呂に入り、翔馬が早紀さんとの電話に夢中になっている間にそれとなく聞いてみた。


すると母親は口籠り、話しをはぐらかそうとする。益々気になって問い詰めると、ようやく話し出した。


「私ね、東京に来るのやめようと思って……」

「はぁ? それ、どういうこと?」

「う……ん、やっぱり私は都会より田舎の方が性に合ってるみたい」

「ちょっと待ってよ! 話が違うじゃない」


私は母親が東京に来たいって言うから本社行きを決めたんだよ。なのに、今更そんなこと……


「母さんをひとりにすることなんてできない。母さんが来ないのなら、私も実家に戻る」

「何言ってるの! やっと八神さんと再会して一緒に暮らせるようになったんじゃない。それに、夢だった秘書課にも入れたのよ。紬はこの生活を大切にしなさい」


穏やに微笑む母親を見て、愁から聞いた母親の言葉を思い出した。


まさか母さん……初めっから東京に来る気なかったんじゃあ……


そのことを確認すると、母親は「あら、バレた?」とペロッと舌を出す。


つまり母親は、自分のことを心配して私が東京行きを断ると思ったから、自分も東京に行くと嘘を付いて私をその気にさせた……


「だって、そうでも言わなきゃ、紬はいつまでもウジウジ悩んでいたでしょ?」


私の考えていることは全てお見通しってことか……さすが母親だ。でも、本当は寂しがり屋でひとりで居るのがイヤなくせに、無理しちゃって。

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