アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
「八神さんと幸せになりなさい」
「母さん……」
色んな気持ちが入り混じり、それ以上、言葉が出てこなかった。ただ、こんなに私の幸せを願ってくれている母親を悲しませちゃいけない。それだけは強く思った。
だから、あのことは言えない。愁の愛が本物なのかという疑問は、口が裂けても言えない。
必死に笑顔を作り頷くと、愁がお風呂から出て来て翔馬も電話を終えリビングに戻って来た。
テレビでは年明けのカウントダウンが始まり、私達が居るリビングもつられて盛り上がる。しかし私は年明けを祝う気分にはなれず、ひたすらワインを飲み無言でテレビの画面を凝視していた。
お陰で一時をまわる頃にはいい感じに酔っぱらい、まだ話しに夢中になってる三人を残して寝室に引っ込む。
広いベッドに突っ伏し大きなため息を付けば、微かに聞こえてくる三人の笑い声。あの笑い声を絶やしてはいけない。そんな使命感が芽生えたのと同時に私の意識は闇の中へと堕ちていった――
――翌朝、目を覚ましたのは夜が明けきらぬ午前五時。
もう少し寝ようと思ったが、目が冴えて眠れない。ゴソゴソと何度も寝返りを打っていたら、隣で小さな寝息を立てていた愁が目を覚まし大きく伸びをする。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
「まだ早いだろ? もう少し寝てろ……」
常夜灯の淡い光の中、寝起きの愁の顔が妙に色っぽくてよけい目が冴えてしまった。
イケメンは寝起きもイケメンだ……なんて思いながら上目遣いで愁の顔を見上げると、いきなり後頭部を抱えられ温かい胸に引き寄せられる。