アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

心の中では、並木主任の勝手な行動のせいでこうなったのに、どうして私が謝らなくちゃいけないんだろうと納得いかなかったけれど、そこはグッと堪え、タオル代の百円と入浴料の六百円を借りることにした。


「鞄を取りに行ったら、すぐ返しますから」

「いいよ。今日はおごってやる」

「いいえ! ただより高い物はないって言いますから、絶対に返します!」


そうだ。七百円といえども借りは作りたくない。特に並木主任には……


彼のパーカーを引っ張り「返す!」と連呼していると、おばあちゃんが突然とんでもないことを言い出した。


「今は夕飯時で入浴客は誰も居ないけど、ゆっくり入りたいなら家族風呂がお勧めだよ。ふたりで入る?」


はぁ? なんで家族風呂?


絶句してお口あんぐり。でも、並木主任はだんぜん乗り気で満面の笑顔。


「おっ! それ、いいな」

「イヤです! 絶対にイヤ!」


ムキになって叫ぶとおばあちゃんが「ふたりは恋人同士なんだろ?」って言うから、慌てて完全否定。


「やめてっ! こんな疫病神と恋人なワケないじゃないですか!」


その一言で並木主任の表情が険しくなり、片方の眉がピクリと動く。


「疫病神?」

「あ、いや……それは……」


さすがに酷いことを言ってしまったと思い焦るが、並木主任は「ふーん」と言ったっきり何も言わず、預けてあった自分の入浴セットをおばあちゃんから受け取ると大股で歩き出す。


ヤバ……今回は本気で怒らせちゃったかも……

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