アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

翌日は定時でタイムカードを押し、電車で青山に向かった。


待ち合わせたのは、早紀さんのお兄さんが指定したフレンチレストランだ。高級感漂うその外観に戸惑いながら木製の扉を開けると、白と青で統一された地中海風の爽やかな空間が広がっていて、一目見てセレブだと分かる人々が笑顔で食事を楽しんでいる。


そんな中、一番奥のテーブルに並んで座る若いふたりはかなり目立っていた。


大学の入学式の為に購入したスーツを着て緊張気味に座っている翔馬は、私が対面の席に着くと青白い顔で「姉貴……俺、帰りたい……」といきなり弱音を吐く。


「もぉ~翔ちゃん、そんなに緊張しなくても大丈夫だって!」


半分死んでる翔馬とは対照的に、早紀さんはいつもと変わらず元気いっぱいだ。と、その時、早紀さんが立ちあがり、笑顔でブンブンと手を振る。


「兄さん、こっちこっち~」


うわっ! もう来た。


私と翔馬も慌てて立ち上がり、取りあえず近付いてきた足音に向かって深く頭を下げた。そしてクソ真面目でシスコンのお兄さんってどんな人なんだろうと興味津々で顔を上げたのだけれど、目の前に立っていたのは、意外な人物だった。


「確か君は、八神常務の秘書の新田君だよな? どうして君がここに居るんだ?」


それはこっちの台詞だ。どうして大嶋専務がここに居るのよ?


「あっ……まさか、早紀さんのお兄さんって……大嶋専務?」

「そうだ。私が早紀の兄だ」


うそ……大嶋専務も社長の身内だったの?

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