アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】

社食を出た私と唯は、検査事務部に戻る途中の廊下で、ふたりして首を傾げていた。


――なぜ大嶋常務が並木主任のことを知っているんだろう? それが、私達の最大の疑問だった。


バイオコーポレーションには、本社、支社を合わせると結構な数の主任が居る。常務ほどの人が主任全員を把握しているとはとても思えない。


「あっ! 分かった! あれだよ。あれ!」

「あれって?」

「例の乳酸菌。本社も商品化には期待していたって言ってたじゃない。あの乳酸菌の研究をしていたのが並木主任だから知ってたんだよ」

「あ~なるほど……」


そういうことかと納得して検査事務部のドアを開けると、課長が青い顔ですっ飛んで来て私に今すぐ第三会議室に行くようにと言う。


「大嶋常務がお呼びだ!」

「えっ、常務が?」

「新田君、君、何やらかしたの?」


何もしていないと訴えるも課長は信じてくれず、早く行けとばかりに私の背中を押す。


ドアが閉まり、ひとり廊下に放置された私は暫し顔面蒼白で放心状態。


一般社員が常務から直々に呼び出しを受けるなんて有り得ないこと。課長には何もしていないって言ったけれど、もしかしたら自分の気付かないところで何かやらかしたのかも……


けれど、大嶋常務と話したのは並木主任のことだけだ。ということは、呼び出しの理由は並木主任絡み?


そう思った時、ある仮説が頭に浮かんだ。


ああっ! 大嶋常務は並木主任の彼女と知り合いだったり? 山辺部長から私と並木主任が付き合っていると聞いて私が並木主任の浮気相手だと勘違いしたんじゃあ……

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