アイツが仕掛ける危険な罠=それは、蜜色の誘惑。【完】
もう悪い予感しかしない。できることならこのまま逃亡してしまい気分だった。しかしそんな勇気もなく、渋々第三会議室へと向かう。
会議室のドアの前に立つと恐怖で腰が砕けそうになり、よろめきながら深呼吸を繰り返す。
もし常務に浮気の件を追及されたら、私は無実だと根気強く訴えるしかない。確かに私は並木主任のことが好きだけど、付き合ってはいないもの。
そう心に決め汗ばんだ手でノックをしてドアを開けると、窓の外を眺めていた大嶋常務が振り向き、優しく微笑み掛けてくる。
「やあ、仕事中に悪いね。少し君と話しがしたくて……どうぞ、座ってください」
えっ? なんかご機嫌なんだけど……
にこやかな大嶋常務に拍子抜けしたのと同時にホッとして強張っていた体から力が抜ける。しかし常務の次の一言で、再び体に力が入る。
「並木主任と親しい君に、聞きたいことがあってね」
きた! きた! やっぱり浮気疑惑だ……と否定する気満々で構えていたのに……
「彼、最近、会社のことで何か言ってなかった?」
「へっ?」
なんてことはないノーマルな質問にキョトン状態。しかし大嶋常務は大真面目な顔で言葉を続ける。
「私はね、並木主任に期待しているんだよ。だが、こちらの研究所に異動になってからの彼は少し様子がおかしくてね。仕事に身が入ってないようなんだ」
「えっ……」
「評価が下がれば、出世にも響く。私はそれが心配でね」